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F1写真家けんさわの世界漫遊20年 “なまらF1記”

第23回 コースサイド撮影の歴史

俺だって若い頃は」とか「昔は良かった」なんて言い始めたらオジサンですよね(笑)。だから僕も自分の中で、それを言っちゃーおしまいよ的に言わないようにしている言葉です。まあギャグとしてはよく使いますけどね。すごくイケメンのタレントがテレビに出ている時に「ワシの若い頃そっくりじゃ」とか。


コースサイド撮影の歴史

コースサイドでの撮影がグランプリカメラマンの醍醐味。F1マシンを手の届きそうな距離で撮影できるポイントは年々少なくなっている

プロフィール

けんさわプロフィール

澤田賢志(さわだ・けんじ)通称けんさわ。1960.8.21生まれ 獅子座 A型(RH+)

レーシングオン、F1速報の契約グランプリフォトグラファーとして、1990年から2008年まで約20年間にわたりF1を取材。またF1速報では91年から2008年まで連載コラムを執筆。さらに1999年からはホームページ上で「サーキット便り。」を発信。F1現場からの生の情報は人気を集め、1日最大40万ページビューを記録するなど多くのファンを獲得した。F1速報ファンミーティング(通称:けんさわ祭り)のプロデュースも行うなど、フォトグラファーの仕事以外でも活躍。さらにカートドライバーとしても全日本級の活躍。現在は地元・札幌でカートショップO&Kを経営している。2008年イギリス GPを最後に、F1現地取材にいったんピリオドを打つ。

 ですから昔は良かった的な話をする時には気を付けているんです。なるべく事実を淡々と話そうと。良かった話しじゃなくて「こうだった」っていう感じで。
 今回のお題は「コースサイド撮影の歴史」なんですけど、まあ今が良いのか、昔がスゴいのか読みながら考えて下さいね。

 F1カメラマンの仕事って言うと、皆さんがまず頭に浮かべるだろうことは走行中のマシン撮影でしょうか。ピットやパドックでのマシンや人やメカ、インタビューなどでの人物、記者会見などの取材、そして雑感系と数ある撮影対象ですけど、やっぱり極めつけはコースサイド撮影なんだと思います。
 モーターポーツですからね、走行シーンがないと始まらないです。

 だからカッコいい走行シーンを記録することは、カメラマンにとってプライオリティのとても高いものになります。でもきっちりとプラクティスの時間割は決まっていますから、1日中ずっとコースで撮影なんていうルマン24時間レースみたいなことはできません。
 金曜2回、土曜2回、そして日曜の決勝と今のF1の場合は5回の走行がありますよね。その5回をコース3回とピット2回なんて具合に割り振って、どちらかというとコースに出る回数を多くするカメラマンが大半です。残りの時間はパドック撮影やら画像処理やらをしてる。
 ピットに撮影に入るにしても、コース撮影が絵になるサーキットだと前半30分をコースで後半残り30分をピットなんて具合でコースの頻度を上げたりすることも多いんです。
 特に近年のF1ピットはどのサーキットでも似たり寄ったりで面白みに欠けていて、その点コースは開催サーキットごとの違いがはっきり出ますから、絵作りを考えてもコース重視になって行くこともあるでしょう。

 そんな「カメラマンが重視」しているコースサイド撮影ですけど、20年前と最近ではめちゃくちゃ撮影作法が変わってきているんですよ。

 そもそも、僕が取材に行くようになるずっと前のグランプリ黎明期にはコースサイドのガードレールすら完備されていなくて、撮影禁止場所っていう概念もほとんどなく、極端な話「コースに出て撮影してもいいけど、気を付けてね(笑)」って言う感じだったらしいんです。そりゃ危ないわなあ(笑)。
 今でもダカールラリーなどではコース上に観客がいたりする映像を見ることがありますけど、オンロードだと今じゃカートでも許されない撮影。
 当時の写真を見ると“あの”オー・ルージュのイン側で、コースに足が掛かっているような距離で撮影しているカメラマンが写ってたりしますから、実際にコースでの撮影はOKだったんでしょう。
 言わば「コース→カメラマン→コースサイド→金網→観客」っていうこと、凄すぎます。

 ガードレールのない時代のコースサイドはタイヤが地面に縦に埋めてあったり(スピンするとそのタイヤに絡んで非常に危険だった。ゴーカート場などでは今でも見ます)、牧草を並べてあったり(四角くした牧草で当たったら緩衝剤にはなる)。当然マシンがコースアウトすると飛び出して行くわけで、少しくらいコースから離れていても危険性は大して違わなかったんでしょうね。今ではコースに入って撮影するなんて考えられないことですけど、おおらかな時代だったんだなー。もっともその頃のF1マシンにはシートベルトすら装備されてなかった時代だから、安全性に関する考え方が根本的に違っていたんですよね。

 その後、グランプリマシンのコーナリング速度が向上し、コースアウト時の危険性が高まって行き、ガードレールが設置されていくと共に必然的にカメラマンもガードレールの後ろで撮影するようになっていったようです。

 僕が撮影に行くようになった1980年代には、ほぼ完全にコースサイドにガードレールが敷かれていて、その後ろで撮影する形が完成していました。でもそのガードレールも今では考えられないほど低いサーキットが多かったなあ。モナコやハンガリーでは「2段ガードレール」が普通にあったもんねー。ガードレールって、一段30〜35センチ。それを2段ってことは60〜70センチの高さですよ。ちょと地面に埋まってるとヒザ上くらいの低さでした。だからちょっとしたクラッシュでも危なかったさー(笑)。

 カメラマンにしてみれば、低いアングルからの撮影がしやすいわけですから歓迎の方向だったけど、どう考えても危ないってんで94年以降は最低3段になって、いまじゃ4段や5段も珍しくなくなっています。

「コース→ガードレール→カメラマンやオフィシャル→金網→観客」っていうことで、まあこの方式がいろんな意味でやりやすいんですよねー。基本的に撮りたい場所でどこでも撮れるし。今でも、いわゆるオールドサーキットと言われる各所では、聖地とも言えるようなフォトジェニックな場所が残されています。

 オールドサーキットならではの撮影スポットの代表的なのは「めっちゃくっちゃマシンが近い」ところ。ブラジルの1コーナーイン側でガードレールに張り付いてると自分の目の前数十センチのところを時速200キロ超えのF1マシンがクリッピング目指して突っ走って行きます。自分はそのクリッピングにいるので、もう近いのなんの(笑)。
 モナコはほぼ全周に渡ってマシンに手が届くような距離での撮影ですけど、最近はちょっとばかり金網が増えてきてて残念なんっすけどね。
 ハンガリーのシケインも、正面ドアップを撮影できる数少ないポイントで、いまだに低めのガードレールも相まって最高です。

 そういう「最高のポイント」ってのが、かつては各サーキットに数カ所はあったもんなんですけど、今は全サーキットで数カ所って感じになってきました。その後、安全基準がどんどん厳しくなって行ったからです。

 まず新設サーキットの設置要項が変わったらしく「コース→ガードレールと金網→カメラマンやオフィシャル→レスキューロード→金網→観客」と変わってきました。
 最大の変更点としては、コース外へのマシンの飛び出しを防止するため、それまでのガードレールに加えて金網を設置する場所がとても増えたこと。そして昨年鈴鹿も導入した救急車移送用の専用通路がコースサイドに確保されるようになったこと。

 救急ロードは安全のためにももちろんですけど、カメラマン用シャトルバスも走ってくれるので大歓迎なんですけどねー。ガードレール上に設置された金網には悩まされますねー。だって金網越しじゃあ撮り辛いんだもん。
 サーキットによってはガードレールと金網の間に若干の隙間があって、そこから身を乗り出したりして撮るんですけど、それすら禁止するサーキットが増えて来たし。
「カメラマンは、金網に撮影用の穴を開けてあるからそっから撮るように」というサーキットすらあるんだもんなー。

 その金網の穴は、カメラマン代表が希望をサーキットとレースオフィシャルに伝え、カメラマンの希望と安全基準を鑑みて開けられるらしく、多くの場合カメラマンの希望通りには開かないようだった。つまり、カメラマンはマシンを正面から取れる場所を好むのだが、安全を考えるとマシンが正面で見える場所は危ないから許可できないということ。
 また正面で許可される場所の多くはマシンまで100メートルものランオフエリアをはさんでいて遠すぎる場合が多かった。カメラマン達が「正面ドアップ」と呼ぶ、マシンがファインダーからはみ出したような、迫力ある正面の走行写真を撮れるサーキットは、本当に一部に限られ、横走りや斜め走りの撮影しかできないサーキットが増えているのである。

 最初の頃は揉めましたよー。ベテランの欧州カメラマンとかが「撮影に関する危険はオウンリスク。カメラマンが自分で安全を確保するのが基本なのだからあまり厳しくするな」ということをいつも掛け合ってくれていた。
 でも「撮影禁止場所」を守るのは良いんだけど「撮影許可場所の穴以外禁止」は本当に困る。カナダなど撮影穴が少ないサーキットには、黒いペイントスプレーを持ち込んで、金網を黒くして写真に写らないようにしたりしてたんですけどねー。マジックで黒くしてみたり、色々工夫してやってたんだけど。

 最近のサーキットは「根本的にランオフエリアが広くて、金網に色塗ったくらいじゃ遠くて話にならん」っていうどーしようもない場所がまた増えているんっすよー。だから「近代サーキットには撮影に行かず、気に入ったオールドサーキットにだけ取材に行く」っていう人が増えてるんですよねー。

 ま、これはあくまでもカメラマンけんさわから見た感想で、こうした規制によってドライバーやオフィシャルの安全が高まっているんですから良いことなんですよ。カメラマンはあくまでも「そこにある事実を残す」のが仕事ですから、しゃーないわ。

 でもドライバー達からも「今のサーキットは安全ばかり考えて高速コーナーが減るし、リスクが低すぎて魅力がない」なんて話が聞こえて来ると、やっぱねー、なんて思う今日この頃です。


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