
F1速報 1999年イギリスGP号 レースレポート
オープニングラップで信じられない事故が発生した。高速右コーナーの“ストウ”でシューマッハーがコースオフ。マシンは200km/h近いスピードで真っ直ぐバリアに当たり。彼は右足下肢を骨折し病院に運び込まれてしまう。これでハッキネンが悠々首位を独走するが彼にもまたハプニングが待ち受けていた──
シューマッハー人生最大のピンチ! クルサード母国GP優勝
マクラーレン日和!?
〈決勝朝試走〉 路面温度25度/気温18度。涼しい朝のウォームアップでは、前日に引き続きハッキネンがひとりケタ外れの1分26秒788というトップタイムを記録し、依然として好調なところをアピールした。
1分26秒台はハッキネンただひとり。2位のタイムを出した僚友クルサードに約0.5秒の差をつけた。
そのクルサードの方もマシンバランスが前日より確実に向上しており、このふたりはまったくノントラブル。この調子でいくと、この日も マクラーレン日和 となりそうだった。
対するフェラーリ勢はどうだったのか?
シューマッハーはハッキネンに遅れること0.7秒差の3位。アーバインは6位と、マクラーレンに明確な差をつけられてしまった。
「マシンバランスに問題が出た。ガッカリだよ。決勝までに直さなければ」と、シューマッハーはきびしい表情を見せた。
ハッキネンからは1.3秒も離されたが、話題の主・ヒルが4位。もちろん燃料を軽くしてのタイムだが、マシンそのものの調子もいい。
「レースセッティングでのマシンは抜群。期待してるよ」というフレンツェンは7位だった。
ラルフも快調、8位に
「ベケッツ・コーナーで風が強くてね」と言うのはバリチェッロ。
「でもセッティングを変えてからはタイムも良くなった」ということで5位。ハーバートもハンドリング難を克服して11位に来た。
「マシンはかなりいいよ」と言うラルフは8位。高速コーナーでのリヤエンドの不安定さが消えたのだ。
バランスがいいといえば9位アレジもそうだ。10位に来たトゥルーリも決勝に期待をかける。ただしパニスはグリップ不足で滑りが大きく、なんと21位の体たらくである。
シューマッハー、大クラッシュ!
〈決勝レース/60周〉 気温23度の晴天の下でスタートを切ったレースは、オープニングから荒れた。
エンジントラブルに見舞われたパニスがトゥルーリ用のスペアカーに乗り換えピットスタート。そしてエンジンストールでグリッドにビルヌーブとザナルディが取り残され、その処理のためにいち早くレース中断を告げる赤旗が提示されるが、それは短い序章にすぎなかった。
赤旗の提示と時をほぼ同じくして5速の高速右コーナーの ストウ で大クラッシュが発生。その当人はなんとシューマッハーだった!
スタートの加速が鈍り、クルサード、アーバインに先を越されて4位に落ちたシューマッハーは、ハンガー・ストレートでアーバインを左右に揺さぶってパスし、ストウにターンインした。
その瞬間、4輪がロック。一瞬タイヤスモークを上げた後、グラベルを突っ切ったシューマッハー車はタイヤバリアにフロントから真っ直ぐ、そして深く突っ込んだのだ!
クラッシュの埃がまだ舞う中、シューマッハーはコクピットから立ち上がりかけるが、外へ出ることは叶わなかった。右足下肢が骨折していたからである。
マシンはノーズが完全に潰れるほどの大ダメージで、シューマッハー自身は全治6週間以上と見られる重傷。次戦オーストリアGPから少なくとも数戦を棒に振らざるをえず、じつに痛いクラッシュだった。
コースオフの原因についてフェラーリは「リヤブレーキ破損」と説明。高速コーナーでぎりぎりまでタイミングを遅らせた深いブレーキングだっただけに、まるでアクセル全開を思わせるコースオフ。激突の瞬間、おそらく200km/hは出ていたのではないだろうか。
シューマッハーがレース生活で初めて経験する深刻なケガである。
アーバインが2位にジャンプ!
約40分遅れて切られた2回目のスタートでは、デ・ラ・ロサがストールし、1周目からセーフティーカーが出動。しかし、それもすぐ引っ込んで戦闘再開となると、1回目と同じくハッキネンが首位をキープした。トップは1回目と変わらなかったが、うまくスタートを決めたアーバインが2位の座を奪い、クルサードの前に出た。その後にフレンツェン、ラルフ、ヒル、バリチェッロ、アレジらが続く。
首位の座を守ったハッキネンは2位アーバインとの差を10周目3.7秒、15周目5秒、20周目6秒と着実に広げ、独走態勢を固めることに成功した。シューマッハーが戦線から消えたいま、ハッキネンを遮る者は誰もいない。
ハッキネンの後方ではアーバインがクルサードに2秒近いリードを保ち、その十数秒後方では4位フレンツェンをラルフが、そのラルフをヒルが付け狙うが、お互い決定的なミスを出さないので順位の入れ替わりはない。
さらに後方では7位バリチェッロをアレジが、9位ハーバートにディニスが食らいつくものの、この集団もなかなか決定打が出ない。
この均衡状態が崩れたのは20周目あたりから始まった1回目のピットストップだ。そこではこのレースを決するいくつものドラマが発生したのだった。
独走ハッキネンに異変!
25周目、上位陣からまず3位クルサード、4位フレンツェン、そしてラルフらがピットに滑り込む。
ここでうまい作業を見せたウイリアムズは、目の上のタンコブだったフレンツェンの前にラルフを出すことに成功する。
翌26周目に首位ハッキネンが、さらに27周目にはアーバインがピットをめざすが、このふたりにはピットストップが仇になってしまう。
アーバインは「マクラーレンのメカニックの陰になって」自分の停止位置の目測を誤り、1メートルも前に斜めに止まってしまったのである。このため給油ホースが届かず、通常より5秒ロスし、作業に12秒もかかってしまった。このミスでアーバインは、せっかくスタートで蹴落としたクルサードの後ろについてしまう。
それよりももっと不運だったのがハッキネンだ。
「マシンの左側の何かがおかしい感じ」がしてペースがまったく上がらず、翌周もう一度ピットイン。ここでピットクルーが左後輪着脱に手間取り11位に転落する。ハッキネンは1分28秒309の最速ラップをマークしつつ追い上げるが、28周目の最終コーナー手前でなんと左後輪が外れ、吹っ飛んでしまう!
右前輪が完全に浮いた状態でなんとかピットにたどりついたハッキネンは、左後輪をもらって1周遅れの18位で戦列に復帰するが、もはや入賞の望みもなく、またチームが大事を取ってピットに呼び戻したため、チャンピオンは静かにマシンを降りるしかなかった。
クルサード、20戦ぶりの勝利
この一連のハプニングで上位の順位は大きく変化し、結局それが固定されることになった。まだレースも中盤だというのに、レースの動向がここで決まったのだ。
もちろん戦いが終わったわけではなく、中盤は10周近くにわたって2位アーバインが首位のクルサードにしかけるも、残り15周あたりから2〜3秒差となる。終盤は4位フレンツェンが3位ラルフにしつようなアタックを仕掛け、それは最終ラップまで続いたが、順位はついに入れ替わることはなかった。5位にヒルが入って引退騒動に一時ストップをかけ、6位にはディニスが入ってカナダGPに続く2点目を計上した。
「すばらしい勝利に感激してるよ。とてもいい気分だ。ピットストップでのクルーの働きに感謝したい。長いこと勝てなかったが、母国イギリスGPで勝てて、こんなにうれしいことはない」と、昨年のサンマリノGP以来20戦ぶりに通算5勝目を飾ったクルサードは、頬を紅潮させた。
加えてクルサードは「シューマッハーの1日も早い復帰を望む」とコメントしたが、それはファンと関係者一同の願いでもある。
そのシューマッハーはノーザンプトン総合病院で右足の手術を受けて成功。夕刻には会話を始めているという——。